院長の部屋 10号 国民総幸福って?
寒くなってまいりましたが、皆様いかがお過ごしでしょうか。お正月気分もぬけ、生活も再び日常の生活に戻ってきたと思います。寒さゆえに風邪をひいたり、肩こりや腰痛なども特にひどくなったり、お肌で言えば乾燥と寒冷をベースにした様々な皮膚病で悩まされる季節です。また湯たんぽなどによる低温熱傷で、既に何人も当院を受診されていらっしゃいますが、低温熱傷は治るのに長く時間がかかることが多いので お気を付け下さいね。
さて、1月1日付の中日新聞にブータンとアメリカを例にとって“幸福”についての 記事がありましたが、読まれた方はいらっしゃいますでしょうか。ヒマラヤ南麓に位置し、人口70数万人、九州くらいの広さの国ブータンでは、「豊かさ」を知るための 経済指標として広く利用されるGNP(国民総生産)に対して、GNH(国民総幸福 :グロス・ナショナル・ハピネス)という概念をGNPのように数値化して客観的な指標にしようという試みを始めています。ブータンでは経済発展や近代化を否定することなしに、「物質的な満足と精神的な満足の両立こそが幸福をもたらす」との考えのもと、このGNHを国の指標として開発を進めようとしています。
ブータンでは国民一人当たりの年間所得は日本の50分の1ですが、大家族制によって街にはホームレスや物乞いはいないそうです。また週1回発行の民間新聞では犯罪のニュースはほとんど見かけないそうで、また日本では年間3万人にのぼる自殺者は、ブータンでは1年に2,3件。うつ病の方が非常に増え、メンタルクリニック全盛のわが国ですが、ブータンでは国内に精神科の医師は1人だけだそうです。妊産婦死亡率は10万人の出産でブータンでは420人、日本では5.7人、また5歳未満児の死亡率もブータンでは日本の14倍。このような医療情勢の中でも、ブータンで一昨年春に行われた国勢調査で、「幸せか」の問いに回答者の97%が「はい」と答えたそうです。一方、GNP世界一の「アメリカ合衆国」の現状を見ると、日本の国民健康保険のような国民すべてをカバーする公的医療保険がないため、国民は民間の保険に加入するしかないのですが、経済的に加入できない人も多く無保険者が4660万人、国民の6人に1人は加入していないそうです。
極端に貧しい人には「メディケイド」という公的な保険があるけれど、支払額が限定されるメディケイド患者さんの診療を拒否する病院も多いとのこと。そして破産の半数は病気が原因であるというアメリカ。世界で一番裕福な国がこんな有り様で、豊かさとはいったい何なのか、本当の幸せとは何なのか、とても興味深くこの記事を読みました。そしてアメリカに習えと進んできた日本もアメリカの病んだ部分が次第に現れてきているように思います。10代の若さでも多くの人が携帯電話を持つことのできる我が国のように裕福な国が世界にいったい何カ国あるのだろうかと考えつつ、無表情で携帯電話のプッシュボタンをひたすらテケテケ打ち続ける若者を見ながら、日本のGNH(国民総幸福)って、いったい世界で第何位になるんだろうかと、ちょっと気がかりになります。物欲の呪縛から解き放たれ、お金やモノでは得られない本当の幸福感を感じることのできる人間になりたいなー、そして経済的に二流国になってもよいから、笑顔の素敵な人で満ちあふれた「美しい国 日本」になって欲しいなーと思います。
ブータンとアメリカの間で今、私達はどちらへ進むべきか考えるときが来ているのではないでしょうか。賢明な選択をわが国のリーダーに期待したいと思います。そしてケイタイやDSを買えることより、家族が笑顔で食卓を囲めることのほうが幸せなんだと子供に教えることのできる大人になりたいと思います。
平成19年1月24日 院 長