院長の部屋 12号 きれい好きの功罪
自宅前に咲き誇っていた紅白の花をつけたツツジもその季節を終え、春から初夏へと 移り変わりつつあります。皆さん、いかがお過ごしですか?
当院は平成13年5月24日に開院し、無事6周年を迎えることができました。これもひとえに当院を温かく見守っていただいた皆さんのおかげと感謝しています。
さて4月下旬に横浜で開催された日本皮膚科学会総会の中で、私の尊敬する東京医科 歯科大学名誉教授の藤田紘一郎先生による「アレルギー病はなぜ増えたか-きれい好 きの功罪検証」という演題のセミナーがあったので聴講してきました。藤田先生は 「笑うカイチュウ」、「日本人の清潔がアブナイ!」など一般向けの著書を多数出版 されている高名な寄生虫学者です。自分の腸の中に「キヨミちゃん」と名づけたサナ ダムシを飼い続けているユニークな先生です。
藤田先生は以前から回虫をはじめとするいろいろな寄生虫を体内から駆逐したことがアレルギー疾患を増加させた主な原因であると主張してこられましたが、その後の研究では寄生虫ばかりでなく、細菌やウイルスなどの微生物がひとのアレルギー反応を 抑えていることをみつけられました。花粉症、アトピー性皮膚炎、気管支喘息など日本において35年前にはきわめて少なかった病気が現在増え続けています。アレルギー病が急増した原因として多くの学者が日本の大気汚染、とくに自動車の排気ガスの増 加や農薬や添加物が混入した食物などいろいろな環境因子をあげています。しかし大気汚染の規制が強化され、環境状況が改善されたにもかかわらず増え続けるアレルギー病。そこで藤田先生は時を同じくして逆に減少した寄生虫疾患に着目して様々な研究の結果、藤田先生なりの学説を説いてこられました。
簡単にまとめると、「きれい好き(きれい過ぎ)の人ほどアレルギー疾患を起こしやすい」という説です。わかりやすい例では、大腸菌O-157感染症の問題の時、同じ 給食を食べた生徒のうち30%は無症状、60%は通常の下痢症状、10%が重症の胃腸障 害が発症したのですが、無症状だった30%の生徒はどちらかというと外遊びが好きで 汚い人、中等症状の60%の人は神経質な人、10%の重症患者は特に神経質な生徒だったようです。もともと大腸菌O-157は清潔観念が低い発展途上国にはいない菌で、超清潔志向の日本ゆえに発生した菌であり、その日本でとくに清潔好きな人に生じた ようなのです。
一方、東西統一されて久しいドイツにおいても同じ民族でありながら子供の花粉症罹患率は旧西ドイツ地区では8.6%、旧東ドイツ地区では2.7%と身の回りをキレイにした西ドイツ地区で花粉症が多発しています。また抗菌グッズの全盛もしかり、人間を 守ってくれる常在菌を減らしてしまっているのです。またお風呂に入り石鹸でキレイ に洗う日本の習慣も度を越して洗いすぎてしまうと皮膚病になりやすいのです。風呂に入って石鹸で洗うと体を守ってくれている皮脂の約90%が流れ落ちてしまうということをお忘れなく。正常な皮膚の若者なら10%皮脂が残れば12時間で元の状態に戻り ますが、年配の方は20時間くらいかかるので、年をとったら石鹸の使いすぎは禁物で す。
最近の日本国内では清潔志向が行き過ぎで身の回りの「共生菌」まで排除している状況で、日本人の「超清潔志向」はアレルギー疾患をますます増やしてしまう可能性をはらんでいます。
アレルギー疾患予防のキーワード「適度の不衛生な環境と粗食」、これは医学的に明らかなようです。ちょっと自分のことを振り返ってみませんか!
平成19年5月17日 院 長