あの日のワンショット「(28)イタリア ベニス」
大学2年の夏休み、ヨーロッパ放浪の旅での一コマ。水の都・ベニスにたどり着いた。
この街は狭い道路と水路が入り組んでいて、他の街とはかなり様相が異なっていた。
世界的に有名な観光地ということもあり、物価も高かった記憶があるし、宿探しも結構てこずった気がする。宿泊費が高いので白人のバッグパッカーはベニス駅前の石の階段で寝袋にくるまって蓑虫のように寝ていた。その数、無数。そして、一人旅の私はレストランに入ることもできず、ピザを買っては食べることがしばしばだった。
街の狭い路地をあても無く歩き、この街の雰囲気を楽しんだが、何故か一番記憶に残っているのは街角の小さな公園でのワンショットである。入り組んだ路地の中で見つけた、地元の人たちのためのちょっとした広場。私は一人ベンチにたたずみ、日記や日本の友達への手紙を書きながらひとときを過ごしていたが、そこでは地元の子供が鳩と戯れながら穏やかな日常の時間を過ごしていた。
旅先で触れる、その土地での普通の生活。世界中どこへ行っても人間は生活をしていて、人々は楽しみ、悲しみ、怒り、悩み生きている。人種が変わっても、土地が変わっても、皆んな同じ。ふと、そこで暮らす人々の生活を想像する。そして自分を振り返る。自分の帰る場所に想いを馳せ、自分の日常を思い起こす。
この街角の広場でボーっと小一時間、思索に耽りながら過ごした。私はこんな時間が好きなのかもしれない。そしてこんな時間はかつてベトナム・ホーチミン中央駅でも、チェコ・プラハの小さな教会でも、ドイツ・ケルン大聖堂でも、インド・カジュラホの食堂でも、ロンドン・ハイドパークの芝生に寝転んでいた時にも経験した。
自分を振り返る時間。私にとって、そんな時間は一人旅の旅先で生まれる。最近、そんな時間がなかなか持てずにいるのは、自分を振り返ってない証拠かも。ちょっと一休みしたいと思うこの頃。