院長の部屋 111号 私的、B級グルメ紀行
トーンと昔の話。学生時代から医師になって間もなくの独身時代にさかのぼり、私が世界を放浪する旅人だった頃のこと。世界各地の街角に立つ露店やジモッティでにぎわうローカル食堂で、その土地のB級グルメを堪能してきました。その中から思い出に残る食べ物を紹介したいと思います。
オランダはデン・ハーグ、マドローダムと言うミニチュア世界のテーマパーク入口前に構える露店に小腹がすいていたので何気なく立ち寄りました。その露店では生ニシンとミジン切りにした玉ねぎを柔らかいコッペパンに挟んだシンプルなサンドイッチを売っていました。選択の余地は無く、生ニシンサンドのみです。買って頰ばると、うまい!!! ビネガーの効いたニシンの白身と玉ねぎのシャキシャキ感。一人、オランダの空の下、生ニシンサンドに口福を感じるひとときでした。
トルコはイスタンブールの新市街と旧市街を繋ぐガラタ橋と言う有名な橋のたもとに横付けされた漁船で売る鯖のフィレを油で揚げてバゲットに挟んだ鯖サンド。イスタンブールではとびきり有名なB級グルメです。イスタンブール滞在中、二度通いました。ボスポラス海峡を眺めながら揚げたてアツアツの鯖サンドをガブリとやる。この景色にこの味、最高!! アジアとヨーロッパの狭間で空腹を満たす至福のひとときとなりました。
ベトナム中部の古都 フエにて。雨の中、道端に行き交う自転車で移動する肉まん売り。夕刻、蒸し器から登る湯気に誘われ肉まんを一つ買いました。ホテルに帰ってから一口味合うと、ぬっ、ぬっ、薄い皮にこれでもかと、タップリの挽き肉が入っています。そしてなんと、ウズラのゆで卵が2個も入っているではないですか。たかが肉まん、されど肉まん。肉まんの美味しさに感動したベトナム・フエの夕暮れ。
スペイン・マドリッドの夜。バルを数軒はしごした後に、スペイン在住邦人Aさんに連れられて穴蔵状の雰囲気のあるお店に入りました。ツマミはAさんにおまかせ。間もなくして、小ぶりな鉄板に熱々のシャンピニオン(マッシュルーム)がサーブされました。グルメレポーターではないのでこの味を言葉で表現する事がなかなか難しいのですが、ニンニクとオリーブオイルのシンプルな味付けながら、酒のすすむ、何度もこの店に通いたくなるクセになる味です。薄暗くスペイン情緒満点のこの店の雰囲気も手伝って「マドリのシャンピニオン」はヨーロッパ50日間、初めての放浪一人旅に彩りを添えてくれた思い出の味となるのでした。
中国雲南省は大理と言う奥地までやって来ました。桃源郷と言ってもよい風光明媚な穏やかな町です。そして少数民族も少なからず住む町。ある日、大理近郊の青空市に出かけました。何を買うでもなくブラブラしていると、露店で人々が美味しそうに皿に盛られた料理を食べています。その物体が何であるか確認もせずに同じ料理を注文すると、出された皿には生豚肉のタタキとネギを和えたものがご飯の上にのせてあります。生の豚肉・・・有鉤条虫の寄生・・・少し前に医動物学の講義で習ったな~。嫌な予感。しかし、周りの人たちは美味しそうに食べています。馬刺、鶏刺は食べたことがあるけれど、豚刺はね~。当時医学部4年生「何かあったら医動物学教室へ寄生虫の相談に行こう」と意を決して、人生初の生豚肉を口にしました。ネギと塩の味付けで美味しく、空腹を十分満たしてくれたのですが“生豚肉”という先入感が・・・。ドキドキしながら食べた懐かしの味です。
インドネシア・バリではカエル、ベルギー・ブルージュではウサギ、ノルウェー・ベルゲンではトナカイ、そしてケニア・ナイロビではシマウマ・インパラ・ヌーなど様々な動物の肉を食べてきましたが、私の味覚では日本の牛・豚・鶏肉に勝る肉はありません。肉に限らず何はともあれ“和食が一番、日本に生まれてきてよかったな~”としみじみ思うのです。
令和2年3月23日 院長